「2025年の崖」が迫る中、ITシステムの刷新を急務とする企業は少なくありません。そうした企業を包括的に支援する組織として、株式会社日立製作所(以下、日立)アプリケーションサービス事業部にはAPモダナイゼーション推進部(AP:アプリケーション)が設置されています。同部企画グループのマネージャーを務める木村 誠が、仕事のやりがいを語ります。
レガシーシステムの刷新に挑むAPモダナイゼーション推進部
「2025年の崖」とは、企業がDXを推進できずに非効率な従来型ITシステム(レガシーシステム)を使い続けることで、市場での競争力が低下するほか、システムトラブルなどのリスクが高まる可能性を示唆した言葉です。
2018年、経産省のレポートでこの概念が示されて以降、崖の底に落ちないようにとDXに着手する企業が急増。しかし、レガシーシステムの刷新は容易なことではありません。
木村 「私たちのお客さまは、比較的大きな企業が多いです。そうした企業は長い歴史の中で、非常に複雑なレガシーシステムを作り上げてきたために、モダナイゼーションの方向性を見定められないという状況になっています。変革の必要性を理解していても、青写真を描くのがとても困難なのです」
ビジネスの停滞を招きかねない状況にありながらも、なかなか一歩目を踏み出せない企業を支援するために立ち上がったのが、木村が所属するAPモダナイゼーション推進部。その経緯について、次のように説明します。
木村 「APモダナイゼーション推進部は、アプリケーションサービス事業部の共通技術統括本部に属しています。事業部の中にも、もともとシステムのモダナイゼーションを進めているメンバーはそれぞれいたのですが、昨今の時流を踏まえ、そこに特化した部隊を強化する必要性が高まっていました。
共通技術統括本部は、企業の基幹システムに共通するアプリケーションの技術開発を担う部門で、いかに信頼性の高いシステムを作るかという方法論やフレームワーク設計を得意としてきました。既存のシステムがどのように稼働しているか、分析するサービスなどを開発してきた経験もあります。
共通技術統括本部内の別部隊に所属していたアジャイルやDevOps、マイクロサービスなどの知見を持つメンバーを、レガシーと最先端技術を兼ねそろえた部隊として再編したのが、APモダナイゼーション推進部。レガシーも分かるし、最先端技術にも精通していることが、この部門の何よりの強みです。
部内には、経歴も得意分野もキャラも多様な40名ほどのメンバーが揃っているので、皆さんの得意分野が生きるよう、マネージャーの皆さんはアサインメントを工夫しています。また、社内外の連携先も非常に多く、一緒にプロジェクトを推進していくので、プロジェクトの始動時には目線合わせすることを重視しています」
多様な人財はもちろん、日立の多様なアセットと連携するからこそ、APモダナイゼーション推進部が提供するサービスはレガシーシステムの刷新に留まりません。
木村 「私ももとはエンジニア出身ですが、2023年1月現在は企画グループでマネージャーをしています。企画グループはお客さまに対し、システム改修に限らずプラスアルファの提案をするチームです。お客さまの本質的なニーズは、システム変革ではなく、これをベースとした競争力の維持・強化。お客さま視点を大切に、課題の本質を見極め、ソリューションを提供しています」
レガシー×先端技術で、お客さまにとって最適なソリューションを提供
APモダナイゼーション推進部では、大きく分けてふたつのアプローチでサービスを提供しています。ひとつはレガシーマイグレーション。業務仕様を大きく変えずに、老朽化してしまったシステムの適用技術の若返りを図るものです。もう一つはモダナイゼーション。マイクロサービスなど、クラウドとの親和性が高いアーキテクチャーへの移行や、アジャイル・DevOpsなどプロセス面の迅速化を行い、変化により強いシステムに変えていくことを言います。
いずれの場合であっても共通して大切にしている姿勢は、レガシーシステムを「否定する」のではなく「生かす」ことだと語る木村。
木村 「レガシーシステムのすべてを十把ひとからげに考えて、全部を入れ替えることが最適解だとは考えていません。コストやスケジュールの関係で、一度にシステムを刷新することができない企業がほとんどだからです。エンドユーザーとの接点がある部分だけにフォーカスすることで迅速なDXを実現したり、バックオフィス業務の課題解決を優先することで経営効率を上げたりと、企業の状況に応じて最適解を考えることを大切にしています」
例えば、とある金融系のお客さまの案件では、レガシーシステムのロジックを生かしつつ、マイクロサービスのアーキテクチャーを取り入れ、成功に導きました。
木村 「金融系は、とくに信頼性の高いシステムが求められる業界です。その一方で、エンドユーザーのニーズに対して、素早く対応したいという要求も強くなっています。
そうした相反する難しい条件に対応するために、基盤の部分はレガシーシステムで培ったロジックを生かして堅実な設計にし、変化に柔軟に対応すべき部分はマイクロサービスとして開発を進めていきました。既存システムという資産と新しい技術をうまく組み合わせ、お客さまの求めるソリューションを提供できた好例ですね」
幅広いプロジェクト、ステークホルダーに関わることで培われる経験とスキル
木村 「この仕事のやりがいは、何といっても社会をより良くしていく過程に直接携われること。レガシーシステムを抱えるお客さまの多くは、社会的影響力が強いビジネスをしているケースがほとんどです。銀行のネットバンキングなどがその一例ですね。既存のシステムがあって、いろいろな制約があることも確かですが、エンジニアとしては、複雑なパズルを解くようなやりがいを感じています」
木村にとって、携わるプロジェクトの幅広さは成長機会の多さと同義です。
木村 「APモダナイゼーション推進部は、事業部の横軸的な存在として、製造業、金融、社会インフラなど業界・業種を特定することなく、本当に多くのお客さまと会話する機会を得ています。これだけ幅広いお客さまと仕事ができる部門は、日立のなかでも珍しいのではないでしょうか」
また、グローバルとのつながりもこの仕事の魅力のひとつだと言います。
木村 「2021年に日立が買収したアメリカのGlobalLogicもまた、DXサービスやソフトウェア開発に強みを持つ企業です。そうした国内外のグループ企業との協業で、いかにシナジーを創出できるかも今後の大きなミッションであり、やりがいになるはずです。グローバルな思考法や働き方をインプットする貴重な機会にもなりますね」
こうした環境は自身のやりがいにつながるだけでなく、メンバーを育成する土壌にもなっていると、マネージャーである木村は感じています。
木村 「幅広いステークホルダーとの対話や協創は、スキルの幅だけでなくビジネス面での視野も広げてくれます。特に私がマネジメントしている企画グループの仕事で生きる経験だと思いますね。
例えば以前私のチームで手掛けた『共感モニタリングサービス』は、産学連携のような形で進めたプロジェクトで、お客さまの企業だけでなく、アカデミアの方との協力関係を築くことができました」
「共感モニタリングサービス」とは、従業員や消費者に向けて発信したメッセージに対する共感度を可視化し、改善施策を提案するもの。大学の研究室と共同開発したことで、これまで以上に成長や気づきを得られたと言います。
木村 「ステークホルダーの利益になる形で実証実験を設計したり、社内の手続きを進めたりする必要もあり、メンバーに開発スキルだけでなくビジネススキルが身についてきていると感じましたね。
また、多くの研究者が世の中を変えうるアイデアを抱きながら、IT面の知見がないばかりに社会実装できないでいるという状況には長年課題を感じていました。この部署で研究者をサポートすることで、協創を実現できるという手応えを感じたプロジェクトでもあります」
日立のDXソリューションをワンストップで提供できる中核組織へ
着実に実績を積み重ねるAPモダナイゼーション推進部ですが、木村はさらなるソリューションの強化をめざしています。
木村 「レガシーシステムを抱えている中で、どうモダナイゼーションしていけばいいのか分からないお客さまに対する支援が、まだ不足していると感じています。この領域で明確なソリューションを打ち出すことで、お客さまが相談相手として日立を一番に想起する状態になることが短期的な目標ですね」
もうひとつのビジョンは、日立全体に通じる課題に根ざしています。
木村 「日立は、レガシーシステムの刷新をサポートするサービスを多数持っています。しかし、それらをワンストップで提供する仕組みはまだ十分に整備されていません。個人的には、APモダナイゼーション推進部のような横串の組織が各サービスのハブとなり、お客さまの窓口となっていくのが良いと考えています。そのためにも、あらためて社内のパートナーとの連携を深めていくことが大事でしょう」
レガシーシステムの刷新というニーズが本質的に抱える課題に向きあい、組織の機能を拡充しようとする中、木村が求めるのは新しい仲間です。
木村 「若手~中堅のエンジニアの中には、もしかするとレガシー技術を毛嫌いしている方もいるかもしれません。ですが、レガシー=もう使わない技術ではなく未経験の技術だと捉え、前向きにチャレンジしてくれる方にジョインしてほしいですね。
レガシーの知見と自身の得意領域をあわせ持てば多くのお客さまに大きな価値を提供できますし、社会の役に立つ喜びを実感できる仕事です。社会的な課題に主体的に取り組める方と一緒に、日立の新しい中核組織をつくっていきたいですね」
システムと同様に、新旧の利点が融合した最適解を生み出す組織──そこへの到達をめざし、木村たちの挑戦は続きます。