デジタルエンジニアリングビジネスユニットの染谷 優作。技術者としてキャリアを積んだ後、退社し、ベンチャーの立ち上げや事業支援などを経て2023年に日立へ復帰を果たしました。デザイン思考を軸に顧客企業との協創活動を推進する染谷が同社に戻った理由とは。日立の可能性、日立だから実現できる未来を語ります。
起業を経て再び日立へ。若い世代も安心して創造性を育める社会基盤をデザインできる環境を求めて
2004年に株式会社日立製作所(以下、日立)に入社した染谷が配属されたのはデジタルメディア事業部。ハードウェアエンジニアとして液晶プロジェクタの光学構造設計を担当しますが、7年目に商品企画部へ。液晶プロジェクタや周辺機器などの企画に携わりました。
「プロジェクタの顧客先として教育機関も多かったことから、教育機関向けのプロジェクトに関わる機会がありました。そこで教師たちの課題や困り事を知ったことを受け、より良い授業の実現に向けた商品の提案を繰り返していたところ、商品企画部から声がかかって異動することに。商品企画のほか、米国で開催されたトレードショーのブース企画なども行いました」
その後も教育機関のマーケティング活動に従事する中で、染谷は日本の教育現場の疲弊ぶりを目の当たりにします。状況を変えたいとの一心で日立を去ることを決意し、本格的に教育事業に関わり始めました。
「退社後、教育を本格的に学ぼうと大学の教育学部に入り直し、同時にフリーランスとして日本の教育の改善に取り組む複数のスタートアップとも関わって教育事業の立ち上げに携わりました。
一方、京都芸術大学で非常勤講師としてマーケティング論を教える機会にも恵まれ、それまで日立で学んだ商品企画やマーケティングのノウハウなど、実践知を形式知化していく作業ができたことはとても有意義でした」
教育事業の立ち上げに関わる中で、教師以外の人物が教育に関わることが子どもたちの創造性を育むことにつながると考えた染谷。2015年に同じ志を共有する仲間と出会い、共に立ち上げたのが株式会社CURIO SCHOOLでした。
「起業準備中に知人から教育事業を始めようとしている方を紹介されて話を聞いてみたところ、まったく同じことをやろうとしていることがわかって。その場で意気投合し、IPO経験のある起業家、外資コンサルファームで活躍していたコンサルタント、シリコンバレーで教育に関わっていた人物などの心強い仲間たちに私も加わり、新会社を設立。Co-Founder/取締役として、約8年にわたって、デザイン思考をベースとしたプログラムなどを通じて小学生から大学生まで、幅広い年代の学生たちの創造力を育む教育に取り組んできました」
事業を展開する中で染谷が接してきたのは子どもたちだけではありません。取り組みに賛同するさまざまな業界の企業と協働する機会に恵まれながら、スキルの幅を広げてきました。
「たとえば、子どもたちや輸送機器メーカーの方たちとモビリティの未来を見据えながら事業ビジョンの構想やサービスアイデア検討、プロトタイピング制作などを行いました。また、エンターテインメント、金融、食品、小売、家電、IT業界など多くの企業と協創を行い、学生と企業が共同で特許出願する事例や、制作したプロトタイプをCEATEC JAPANといったカンファレンスに何度も出展し、多くのメディアに活動を取り上げていただきました。
日立とも一緒に、VRやXRに関するプロジェクトのほか、さまざまな協創活動に取り組みました。現在では、Lumada Innovation Hub Tokyoのビジョンデザインサービスとして 、Z世代学生とのビジョンデザインサービスもメニュー化に至っています。
そうした出会いがあるたびに、さまざまな困り事と向き合ってきました。多くの学生や企業と共に、ユーザー起点で課題発見から課題解決に至る一連のプロセスで価値を生み出し続ける活動は、まさに広義のデザイン活動そのものです。エンジニアとしてキャリアをスタートしながらも、気がつけばデザイナーを名乗れるだけのケイパビリティが身についていました」
教育事業が軌道に乗る一方、子どもたちが未来に対して漠然と不安を抱える現状にもどかしさを感じていたと言う染谷。安定した社会基盤の必要性を痛感したことが、日立への復帰を考え始めるきっかけになりました。
「少子高齢化や年金問題といった日本国内の課題から、環境問題や戦争といったグローバルな課題まで、日頃から暗いニュースを多く耳にしているからか、自身の将来を案じている子どもたちが少なくありませんでした。先が見通しづらい不確実な社会の中では、子どもたちは本来の創造性を思うように発揮できません。彼らが不安を感じなくて済むような社会基盤やインフラの整備が急務だと感じるようになりました。
そんなときに、これまでの協創活動でご縁があった日立のデジタルエンジニアリングビジネスユニット、DesignStudioのメンバー。社内のさまざまな事業を横串で手がけながら、いろいろな企業との協創に取り組んでいる皆さんの活動をあらためて調べていくうちに、ここでなら自分のやりたいことが実現できるのではないかと考えるようになりました。
そもそも日立はこれまで長く社会基盤やインフラを支えてきた会社。その圧倒的な資産規模から言っても、ダイナミックに社会変革をリードできる可能性を秘めています。日立で約10年のキャリアを積み、会社を出て約10年、まったく違うキャリアを積み上げてきたこのタイミングで、これまでの経験を活かして日立で再度働くという選択肢はおもしろいのではないかと思い、再入社を決めました」
日立のデザイン思考をもとに、多様性とグローバルな視点で実現する協創活動の可能性
2023年2月に日立へ復帰を果たした染谷。さまざまな社会課題の解決に向け、デザイン思考を軸に顧客企業や社内の各部門との協創活動を推進してきました。
そうした協創活動を進める上で日立が取り入れている手法が「NEXPERIENCE」。そのベースにあるのは、日立ならではのデザイン思考です。
「日立では1957年に意匠研究所が発足し、約70年にわたって生活者起点のデザインに取り組んできました。『こんな技術があるからこれを活用してこんなことをやろう』ではなく、こんな困り事を抱えている方がいるからこの技術を活用して解決していこう』という具合に、ヒトや社会を起点に課題を定義した上で、経験価値に重きを置き、解決策を見いだそうとする人間中心のデザインに取り組むマインドセットが社内には根づいていると感じます」
一方、大規模な事業に携われるのも日立だからこそ。難しさがある反面、起業家時代にはなかったおもしろさを感じていると染谷は話します。
「大規模な社会インフラを扱う事業では関わるステークホルダーが多いため、それぞれの想いを引き出しながら、誰もが納得できる着地点を見つけ出さなくてはなりません。合意形成を図るのは簡単ではありませんが、スケールの大きな事業にチャレンジできるのは刺激的です」
また、DesignStudioにはさまざまな出自を持つメンバーが在籍。多彩な人財と共に仕事ができることも魅力のひとつだと言います。
「デザイナーとしてキャリアを積んできた方以外にも、コンサルやマーケター出身など転職組が多く、それぞれのバックグラウンドを生かした実に多様な観点から意見が出されるため、幅の広さも深さもある議論ができていると感じます。
2021年に買収した米GlobalLogic社や2017年に設立された日立ヴァンタラ社など、海外のグループ会社のデザイナーやエンジニアと協業できる環境があるのも当社の強み。グローバルのトレンドや価値観に触れながら課題仮説や価値仮説を探索・検証していくプロセスもエキサイティングですし、多様な仲間たちと共に、ヒトや社会、地球にとって、本質的に価値のあるモノ・コトをデザインしていきたいです」
豊富なリソースを使って自ら事業を推進。社外を経験して気づいた日立で働く醍醐味
日立では、2019年からCURIO SCHOOLが主催するイベント「MONO-COTO INNOVATION」のスポンサーを務め、活動支援を行ってきました。これは、企業が提供するテーマに対して中高生がデザイン思考を活用してアイデア創造に挑むプログラムのこと。2023年は5日間にわたって開催され、染谷を含むDesignStudioのメンバーがメンターとして参加しています。
「学生たちはこうしたプログラムを通じてデザイン思考の可能性を感じることはできても、それを使ってどのように仕事をするかまではなかなか理解できません。一方、企業側はデジタル技術を活用して新たな価値提供できる人財、すなわちデジタル人財を求めています。
CURIO SCHOOLも、そんな企業と学生をつないでいく場も生み出していけるのではないかという考えから、人事の方と共に採用支援のような活動を進めています」
約10年ぶりに日立に復帰した染谷。社外での活動を経験したことで、同社の魅力をあらためて実感していると言います。
「新卒で働いていたころは気づきませんでしたが、外に出て気づいたのが、潤沢なリソースを活用できる環境のありがたさです。高い専門スキルを持つ方々と共に仕事ができるのも日立だからこそ。大きなことにチャレンジしたい方には、とても恵まれた環境が日立にはあると感じています。
また、日本の企業の中でもこれほど幅広い領域で事業を展開している企業は少ない上、コンサルファームと違って、自ら事業をつくっていけるのも日立の魅力。お客さまに提案して終わりではなく、サービスや製品を通じて社会に実装するところまで一貫して関われるところに醍醐味があると考えています」
一方、時代の流れを経て感じるこんな変化も。以前とは別会社のような働きやすさがDesignStudioにはあると言います。
「再び入社してみて、限られた時間で成果を出そうとする文化が浸透していることに驚きました。1on1ミーティングや、リモートワーク環境、ドレスコードフリー出社といった文化もありませんでしたし、以前よりも風通しの良さや、成長を後押しする環境が充実していると感じます。生産性高く働き、お休みには家族でまとまった時間を過ごすなど、仕事とプライベートが調和したメリハリある働き方ができていています」
世代を超えて学び、育ち合う協創文化が当たり前になる未来を
ゆくゆくは社内起業家のような立ち位置で新事業の立ち上げにも携わっていきたいと話す染谷。将来の展望とその背景にある想いをこう綴ります。
「さまざまな領域で事業を展開している方々とのネットワークをまずは広げていくつもりです。社内のどこにどんな方がいて、どのようなビジョンを持ち、事業に取り組んでいるのか、全体像を掴んだ上で信頼関係を築き、皆さんがワクワクするようなビジョンを描いて、キーパーソンを巻き込みながら新しいことを仕掛けていけたらと思っています。
これまで約10年にわたって日本の教育の未来をより良いものにしようと活動を続けてきましたが、その気持ちはいまも変わっていません。日本の子どもたちに良質な教育機会を提供するためのインフラ整備に向けた構想を練り上げ、日立の事業部の方々を含め、社内の豊富なリソースを有効活用しながら、前職とは違った角度からのアプローチで、より良い教育環境の実現にもいつか貢献できたらいいなと考えています」
そして染谷には、その先に描いている社会の未来図があります。
「たくさんの子どもたちと触れ合う中で、世代を超えた協創が、大人と子ども双方に多くの気づきや刺激をもたらす価値の大きさを肌で感じてきました。さまざまな企業で働く大人たちが、理想とする社会の実現に向けて必死で汗をかいていると思いますが、大人だけでなく、未来を担う子どもたちが一緒に考え、互いに学び合い、育ち合う文化が広がっていくことを願っています。
日立では協創やCo-Creationをキーワードに掲げてさまざまな取り組みを進めていますが、その言葉の意味の幅を広げ、皆でひとつになって新しい世界をつくっていきたいですね」
より良い未来に向けた染谷の挑戦はこれからも続きます。日立の可能性を、日立だから実現できる未来があると信じて。
※ 取材内容は2023年9月時点のものです
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社会課題解決に向けた協創活動をリードするデザイナー[Assistant Manager]