ゼロからミッションクリティカルなシステムの開発に挑む──「電子手形プロジェクト」完遂で得た確かな手応え
2022年に全国銀行協会(以下、全銀協)が設立した「電子交換所」のシステムの開発・保守・運用を担う株式会社日立製作所(以下、日立)。これまで手動で行われてきた手形・小切手の交換業務を電子化するために奮闘した鳴海 朋宏と三島 秀太が、当時のエピソードや挑戦を後押しする組織風土について語ります。
手形・小切手の交換業務をよりスムーズに。日立の文字認識技術が支える「電子交換所システム」
大手金融機関などをお客さまとし、さまざまなソリューションを提供している金融第二システム事業部金融システム第二本部。「電子手形プロジェクト」へ取り組むことになったのは2019年のことでした。
三島:「電子手形プロジェクト」とは、これまで手形交換所を介して手動で行われてきた手形・小切手の交換業務を電子化する「電子交換所システム」を立ち上げるためのプロジェクト。
そもそも手形・小切手をお金に換えるためには、受取人の金融機関から手形交換所、そして手形交換所から支払人の金融機関へと手形・小切手を搬送する必要があり、企業の生産性向上や金融機関における決済の効率化等の阻害要因になっていました。
そのため、約束手形の利用廃止と小切手の全面的な電子化に向けて、産業界、関係省庁と金融界が連携して取り組むことが政府で決定され、国内の民間銀行が加盟する全国銀行協会にて「電子交換所」を設立することになりました。
この「電子交換所」を担うのが「電子交換所システム」です。手形・小切手の交換方法を電子化することにより、金融機関や手形交換所は搬送の手間やコスト・災害時に搬送できないといったリスクを軽減することが可能です。
各金融機関が独自のフォーマットを持っているため、3000種以上の様式があると言われる手形・小切手。三島は、日立に高性能な文字認識技術があったからこそ、開発ベンダーとして白羽の矢が立ったと言います。
三島:「電子交換所」システムを作るためには、多様なフォーマットや手書きの文字を正確に読み取れる技術が必要です。そこで採用されたのが、日立の「帳票認識サービス」。AI-OCR(※1)という技術を用いた文字認識学習システムで実証実験を行なっていく中で、全銀協さまにもご納得いただき、受注の運びとなりました。
こうして、「電子交換所システム」の開発に携わることになった三島。一方、鳴海は実際に「電子交換所システム」を利用する金融機関向けのASP(※2)サービス立ち上げに加わります。
鳴海:「電子交換所システム」が稼働したら、金融機関もそれに対応したシステムを用意する必要があります。過去に銀行さま向けのASPサービス開発に携わっていたこともあり、その知見を生かしてプロジェクトマネージャーという立場で開発に関わることになりました。
※1 AI-OCR:AIの特調であるディープラーニングにより文字の補正結果を学習し、従来型の光学文字認識機能の弱点であった識学率を向上
※2 ASP(Application Service Provider):ネットワークを通じて業務用のアプリケーションソフトウェアを提供するサービス業者
新しいプロジェクトへの挑戦と苦労。従来の業務を理解し、ニーズを洗い出す
「電子交換所システム」の開発に携わる三島と、それに対応する金融機関向けのASPサービスの開発に携わる鳴海。ともに手形・小切手に関する知見が少ない中で、ゼロから新しいシステムを作る難しさを味わったと言います。
三島:「電子交換所システム」はベースとなるようなシステムもなく、ゼロから新たに作っていく必要がありました。メンバーのほとんどが手形や小切手、そして交換業務の流れを知りませんでしたから、まずは「手形・小切手とはなんぞや」を勉強するところから始まりましたね。
さらにスケジュール的には、開始3カ月で金融機関向けに電子交換所のインターフェースの仕様書を作成・配布しなければならなかったため、順序立てて業務を進めていく余裕はなく、さまざまなことを並行して行う日々が続きました。
まだ正解がわからない中での仕様書作成だったので、後から多少変更ができるように予備領域も設けておくなど工夫も必要でしたね。
鳴海:金融システム事業部では複数の金融機関へASPサービスを提供する取り組みが10〜20年ぶりだったため、立ち上げを経験したことのあるメンバーが少なく、手探りの状態からスタートしました。最終的には現在の本部長など現場以外からもさまざまな助言をもらい、準備を進めました。
とくに苦労したのは社内の投資審議会。ここを通せなければ製品を作ることができないのですが、「本当に受注していただけるのか」「しっかりとした製品が作れるのか」となかなかGOサインが出ず、お客さまへのニーズ調査を繰り返しながらなんとか3度目で承諾をもらえました。
新しい技術を使うことも含めとても挑戦的な取り組みでしたが、実際に審議が通った時、そして実際にお客さまに受注いただけた時は本当にうれしかったですね。
壁にぶつかるたび手を差し伸べてくれたのは社内メンバー。一丸となって問題解決へ導く
数々の挑戦を繰り返しながらプロジェクトを進めていった鳴海と三島。中でも印象的だったことについてこう振り返ります。
三島:既存のシステムや仕様がない中で、ゼロからインターフェースや処理方式の設計などを作っていくことは、重圧もありましたが楽しかったです。お客さまとともに考えたアイデアが仕様書となり、全国の金融機関に配られるという事実に「大きな仕事を任されている」というやりがいも感じましたね。
また、開発中はさまざまなトラブルも発生しましたが、その度に社内の有識者が力を貸してくれたのもありがたかったです。相談しながら試行錯誤して解決できた時には、当社のメンバーのポテンシャルの高さを実感しました。
鳴海:このプロジェクトに取り組んでとくに良かったと思っていることは、社内の横のつながりが増えたこと。最終的に200を超える金融機関より発注いただいたため、各機関のフロントSEや営業担当と連携しながら進めていきました。時には社内外で交渉や話し合いが必要になる時もありましたが、そんな中でプロジェクトを進めていけたことは自信につながっています。
2年以上の開発期間を経て、2022年7月に無事にリリースされた「電子手形プロジェクト」。周囲からさまざまな反響があったと語ります。
三島:リリース時期が遅れることなく稼働開始できたので、全銀協さまからは感謝されました。仕上がりについても満足していただき、「今後も三島さんに保守をお願いしたい」と声をかけていただけたのはうれしかったですね。
また電子交換所の設立は世間的にも大きなニュースとして報じられるなど、注目度の高さが伺えました。あらためて、社会的意義の大きい仕事に携わっていたんだと実感しましたね。
鳴海:ASPサービスはリリース当初トラブルがあり、一部のお客さまにご迷惑をおかけしてしまいました。ですので、リリース直後は信頼を回復するためにひたすら駆けずり回っていた記憶ですね。
トラブルが落ち着いた時に声をかけてくれたのは社内の人々。「こんな大変なプロジェクトをよくオンスケジュールで稼働させたね」とねぎらいの言葉をもらい、励みになりました。
新しいことにチャレンジしたい人にこそ来てほしい。挑戦を下支えする技術と知識
鳴海も三島も、このプロジェクトを通じてさまざまなことを学んだと語ります。
鳴海:新規事業の立ち上げに携わることができたことは、非常に勉強になりました。普段聞きなれない手形や小切手の業務を理解して、金融機関の方々にとって使いやすいサービスを作っていく難しさがありましたね。
技術はもちろんのこと、ステークホルダーとの綿密なコミュニケーションを求められる場面も多く、ヒューマンスキルも一段と鍛えられたように思います。
今回とくに感動したのが、当社のフロントSEと各金融機関の強い信頼関係。これまでの信頼があったからこそ、200を超える金融機関の方々に発注いただけたのだと思っています。
三島:このプロジェクトに参加したことで、パブリッククラウド上に決済システムを構築するという難易度の高い経験ができたのは大きな成長につながったと思います。
今回はプロジェクト初期から参画し、処理方式、業務アプリケーションの開発などにも携わらせてもらい、視野が広がりました。また、大きなプロジェクトだったので、チームビルディングなどのスキルも高まったように思います。
私は今回、当社の最新技術に対する知見や、ミッションクリティカルなシステム開発に対する豊富な知識に感銘を受けました。困った時は必ず誰か有識者がいて相談できるので、チャレンジしやすい環境だと感じます。
「これからも社会に大きな影響を及ぼすような仕事がしたい」と語る両人。今転職を考えている方々にこう語りかけます。
三島:当社で働く一番の楽しさは、最新の技術を用いてお客さまの課題を解決できること。「積極的にアイデアを発信したい」「仲間とともに切磋琢磨したい」「社会的にインパクトのある大きな仕事がしたい」という方には最適な環境だと思います。
鳴海:私たちの部署の魅力は、新しい事業領域にも目を向けチャレンジングな案件にも果敢に取り組んでいる点です。困った時に頼れる、技術力の高い方やヒューマンスキルの高い方も数多くいますので、「大きなチャレンジをしてみたい」という方はぜひお待ちしています。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです